気象庁からの「生物季節観測の見直し」のニュースに思うこと

2020年11月10日、二十四節気七十二候にも関連する大きなニュースがありました。気象庁から「来年(令和3年)1月より生物季節観測を見直す。」と発表されたのです。

「生物季節観測」とは、身近な動物を観測する「動物季節観測」と植物を観測する「植物季節観測」の二種類から成り立っています。季節の進み具合や長期的な気候の変動を把握することを視野に入れた重要な観測です。2020年10月時点では、「動物季節観測」23種の動物(鳥・昆虫など)と「植物季節観測」34種の植物が観測種目となっており、全国の気象台と測候所における計58地点で観測されています。

その発表の内容は、「生物季節観測」の見直しというよりは、上記の観測種目の大幅な削減となっています。2021年1月からは「動物季節観測」に関しては全てを廃止し、「植物季節観測」に関しては、桜や梅など植物6種のみへと観測種目を大幅に縮小して、観測を続けるという内容になっています。

 

二十四節気_梅と鶯(うぐいす)

 

「生物季節観測」の目的は、観測機器だけでは捉えられない季節の変化や、自然界の異変をキャッチしようというものです。平年との比較により季節の遅れ進みや気候の違い・変化などを把握したり、総合的な気象状況の推移を把握します。各気象台・測候所の場所による気候の違いを見極めようということもあります。さらに、長期的な気候の変化や地球温暖化による気候の変化などを見ていくという目的もあります。

「生物季節観測」の方法は、観測者(気象庁職員)が実際に眼で見て、動植物の現象を確認した日を記録します。1953年から気象庁全体にて観測方法を統一し、実施されてきています。各地で観測されてきた中から「生物季節観測」の目的に沿う観測種目が選ばれており、全国的に広く分布しているものを対象に観測するものと、その土地ならではの独自の生物を選んで観測するものとがあります。植物は、例えば、東京の桜だったら靖国神社のソメイヨシノといったように標本木が決まっています。ちなみに、58の全地点で観測されている種目は桜だけとなっています。

 

生物季節観測の種目)気象庁ホームページより引用

動物季節観測の種目(2020年をもって全種目・現象を廃止)動物季節観測の種目(2020年をもって全種目・現象を廃止)植物季節観測の種目(★印 2021年1月1日以降 観測が実施されていく種目・現象 それ以外は廃止)植物季節観測の種目(★印 2021年1月1日以降 観測が実施されていく種目・現象 それ以外は廃止)

 

「動物季節観測」の全廃の理由に関して、気象庁の見解は「対象を見つけることが困難となっており、また観測できたとしても結果にばらつきが大きく、気候の長期変化や季節の遅れ進み等を知ることが困難である。」「観測の目的は本来、生物の現象から、季節の変化を見ようというもの。その季節の変化を見られなくなっている、動物の出現が季節の変化を表していない。」としています。

気象庁からの「生物季節観測」の見直しの発表以来、「環境の変化を知るには必要」と惜しむ声や、「動物季節観測」の全廃に反対する声を聞きます。社会的にも注目されており、報道機関における天気予報の在り方にも影響が出そうです。

見直し・改善というのは適宜必要だと思いますが、その言葉の枠を大きく外れて、「動物季節観測」の全廃というマルかバツかの短絡的な考え方に疑問を呈します。動物という一括りではなく、動物や鳥類・昆虫類など、一つ一つの観測種目に対するきめ細やかな配慮があって然るべきです。観測の方法も旧態然のままではなく、アイデア次第で状況が変わるかもしれません。

気候変動や温暖化の指標として極めて重要な観測種目も存在しますし、これからも追跡していくべき重要な観測種目もあるのではないでしょうか?生物の現象と季節の関係に従来とは異なる因子が現れてきているのであれば、その因子を継続的に観測・分析していくことも大切な観測と言えるのではないでしょうか?見直しの理由として述べられている内容では、本質的な説明になっておらず、上記で触れた観測の目的を、甚だ以て放棄していると言わざるを得ません。

「生物季節観測」は、疎かにしていい二次的な観測ではなく、気候の予報や警報を支えている重要な観測の一つです。その見直しは、もっと慎重に行うべきであり、もっと熟慮すべきであると考えます。

気候という言葉は、旧暦における二十四節気の「気」と七十二候の「候」が合わさったものです。二十四節気七十二候こそが「気候」そのものであり、私たちの暮らしや文化と密接に関わっています。

今回のニュースは、その大切なものを置き去りにされてしまったような感覚…と言えるでしょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。