暦で、話を咲かせよう。
日本の旧暦
日本には、豊かな季節の移ろいがあります。それを人々は細やかに感じ取って、それぞれの季節に寄り添い感謝をしながら、暮らしの中に溶け込ませることで、心の拠りどころにしていたのが「旧暦」です。
年ごとに繰り返される四つの季節である「春 夏 秋 冬」。それぞれの四季は、「初」「仲」「晩」をつけて、さらに三つに分けられます。合計すると十二の季節。ちょうど十二ヶ月と同じ区分になり、そのまま月名としても用いられました。季節や行事に合わせた和風月名(わふうげつめい)という呼び名もあります。
そして一年を二十四等分した「二十四節気」、それをさらに「初候」「次候」「末候」と三つに分けた「七十二候」などから構成されます(図-1. 日本の旧暦)。
人は昔から、太陽や月の巡るリズムを、季節や月日などを知る手掛かりにしてきました。「旧暦」というのは「太陰暦」と「太陽暦」を組み合わせた「太陰太陽暦」のことで、月(太陰)と太陽の両方の動きを基に作られた暦です。明治五年(1872年)まで長い間親しまれてきた昔ながらの日本の暮らしの暦です。地球が太陽の周りを一周する時間の長さを一年とするのが「太陽暦」、月が新月から次の新月になるまでを一ヶ月(新月の日が毎月一日)とするのが、月の満ち欠けに基づく「太陰暦」です。
図-1. 日本の旧暦
「二十四節気」は、約十五日おきに、それぞれの季節を漢字二文字で簡潔に言い表しています。現在では 二十四節気の最初の日だけを指して言いますが、本来は十五日間全体のことを示していました。立春から始まり、二至二分(春分・夏至・秋分・冬至)の時期に四季それぞれの盛りを迎え、大寒で締めくくられます。立春・立夏・立秋・立冬が、四季それぞれの始まりで四立(しりゅう)と言われ、二至二分と合わせて八節とされます。
「七十二候」は、約五日おきに、それぞれの季節の花・草木・野菜・果物や鳥・魚・虫たち、自然現象などを題材に、漢詩の一節のような生き生きとした文章で表現されています。暮らしを支える農作業の目安としても、密接な関わりを持っています。
その他に、「五節句・五節供」と呼ばれる人日(じんじつ)・上巳(じょうし)・端午(たんご)・七夕(しちせき)・重陽(ちょうよう)や、「雑節」と呼ばれる日本の暮らしから生まれた独自の暦日があります。「雑節」は、主に農作業と照らし合わせた季節の目安となっており、日本の気候風土に即しています。節分・彼岸・社日(しゃにち)・八十八夜・入梅・半夏生(はんげしょう)・土用・二百十日(にひゃくとおか)・二百二十日(にひゃくはつか)などがあり、各地で祭りや行事などの風物詩が催されてきました。
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移ろいゆく季節を栞の色で表します。
桃色「春」赤色「夏」橙色「秋」紫色「冬」
仲夏 旧暦五月(新暦六月) 皐月(さつき) 移ろいゆく季節‥、早苗(さなえ)がそよぐ。
「早月(さつき)」「早苗月(さなえづき)」「五月雨月(さみだれづき)」などとも呼ばれ、早苗田(さなえだ)を吹き抜けるやわらかな風が、心地よい時。
晩夏 旧暦六月(新暦七月) 水無月(みなづき) 移ろいゆく季節‥、祭り囃子が聞こえる。
「水待月(みずまちづき)」「風待月(かぜまちづき)」などとも呼ばれ、梅雨が明けてからの厳しい暑さを凌いでいきたいという気持ちが表れています。
初秋 旧暦七月(新暦八月) 文月(ふみづき・ふづき) 移ろいゆく季節‥、川辺に漂う秋の気配。
旧暦においては、文月の7日が七夕にあたり、「七夕月(たなばたづき)」「七夜月(ななよづき)」「愛逢月(めであいづき)」などとも呼ばれます。
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「旧暦」には、古き良き時代の暮らしの多様な感性が詰まっており、生きていくための知恵、豊かに暮らしていくための知恵を学ぶことができます。「暦で、話を咲かせよう。」では、その多様な感性を、いまの時代の暮らしになぞらえながら、新たな感性を咲かせていければと考えています。